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ミュージカルの傑作『シカゴ』 〜心の移ろいやすさは不変?〜


シカゴ

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2ヵ月に及ぶロングラン上映という息の長いヒットとなった「シカゴ」(ロブ・マーシャル監督)は、久々の本格ミュージカルとして、ダンス、歌、演技と見応え、聴き応え十分、そして、法廷ドラマの要素もあり、幅広い層の観客が劇場に足を運んだのではないだろうか。

私が興味深かったのが、スキャンダルに無節操に飛びつくマスコミや世間の描かれ方だった。それを利用して悪徳弁護士ビリー(リチャード・ギア)が殺人を犯した踊り子ベルマ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)をスターにしようとするが、途中で、別の殺人犯ロキシー(レニー・ゼルウィガー)に乗り換える。たちまち、世間の関心・人気はベルマからロキシーへ。そしてその人気も別のスキャンダル女性へと移っていく。

舞台は1920年代のシカゴ。原作は26年に書かれた戯曲で、27年、42年に映画化。それを元にしてブロードウエーを代表する演出家ボブ・フォッシーが75年に舞台ミュージカル化。この舞台が大成功して、今回が待望の映画化だった。原作の発表から80年近くが過ぎても今に通じるということは、人の心の移ろいやすさは不変ということか。

閑話休題―。今年のお笑い界でも、ブレークとかブームという言葉でたちまち人気者になった人たちがいる。“中高年の星・綾小路きみまろ”“なんでだろうのテツandトモ”“ゲッツのダンディ坂野”“佐賀県のはなわ”彼らはおのおの、テレビ各局のバラエティー番組やワイドショー、歌番組がこぞって取りあげ、露出しまくっているが、世間の関心は、この人気がいつまで持つか?に移行しているのではないか。

テレビは、今、誰が受けているかにアンテナを張り、見つけると使い放題、飽きられると捨てる消費社会で、じっくり育てようなどという考えは毛頭ない。つぶやきシロー猿岩石ドロンズなすびなどの名が浮かぶが、彼らには実力の裏付けがなかった。同様に一発屋のキワモノと思われた藤井隆は、笑いのセンス、アドリブ、演技力において意外にも実力が備わっていて残るべくして残っていると言える。

山形出身のトモこと石沢智幸のいるテツandトモには、活躍し続けてほしいというのは県民共通の思いだろう。どんなに中央で売れようとも山形テレビのゴジダスに出演する律儀さ、山形放送開局50周年記念番組に出演する義理堅さには好感が持てる。このまじめさが幅広い人気を得た大きな要因となっているのだが“お笑い”ではこの“まじめないい人”キャラは諸刃(もろは)の剣となりかねない。初アルバムがリリースされるほど、しっかりした歌唱力を持ち合わせた二人の新たな活躍に期待したい。

昨年5月に本欄で取りあげた映画「日を愛しむ」の企画は、山形出身の女性金子ていと滋賀県出身の作家外村繁の夫婦愛を描こうとするもので、滋賀県出身のテツ(中本哲也)と山形出身のトモに広告塔になってもらえたら、などと甘い期待を寄せていたが、監督と映画会社のトラブルで、映画製作を断念せざるをえなかったことは返す返すも残念なことだった。

篠田正浩監督最後の作品となる「スパイ・ゾルゲ」は、ソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲと彼にくみしたジャ−ナリスト尾崎秀実たちの目を通して、なぜ、日本が戦争に突き進んでいったかを描こうとしたものだが、あれもこれもと欲張り過ぎの感あり。対する韓国映画「二重スパイ」(キム・ヒョンジュン監督)は、1980年代前半の軍事政権下の韓国と北朝鮮の緊張関係が一人のスパイを通してよく描かれている。ハン・ソッキュをはじめとする俳優陣も好演。

日韓「スパイ映画」戦争勃発(ぼっぱつ)。あなたはどちらに?

2003年6月20日 (敬称略)