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死期迫った男の生き方「海辺の家」 〜体を張った愛情と矜持〜


海辺の家

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42歳の建築デザイナー、ジョージ・モンローは上司に突然クビを通告される。誇りを持って仕事に取り組み、長年、会社に貢献してきた彼にとっては青天の霹靂(へきれき)だった。彼が手掛けた作品の模型が会社のいたるところに飾ってあることからもそれは頷(うなず)けた。

ところが、IT化が進み、パソコンでCGを駆使してデザインするのが当たり前のいま、会社にとってジョージの職人的こだわりは無用の長物となっていた。

そして彼は病に倒れ、医師に末期ガンで、余命4カ月であることを告げられる。次々に押し寄せる不幸は彼にある「決意」をさせる。

彼には10年前に別れた元妻ロビンと16歳の息子サムがいた。ロビンはサムを連れて再婚し、経済的には恵まれ、何不自由ない生活を送っているようだったが、反抗的なサムと夫の仲は険悪化の一途を辿(たど)っていた。鼻にピアス、顔にメーク、そしてドラッグに溺(おぼ)れるサムは手の施しようのないほど心が荒(すさ)んでいた。

ジョージは、抵抗するサムを無理やり、自分が住む海辺のあばら屋に連れて行き、夏休みの間、共に暮らしながら、新たな家を自分たちで建てようとする。案の定、反発するサムだったが、そんなことは歯牙にもかけず黙々と古い家の取り壊しと、新築に取り組むジョージだった…。

反目する父と息子の和解というテーマでは「エデンの東」(エリア・カザン、1955年)が想起され、命に限りをつけられた男が一念発起して行動するというテーマでは「生きる」(黒澤明、1952年)、「マイライフ」(BJルービン、1993年)が浮かぶように、感動作の常道を臆面(おくめん)もなくいくような作品ながら、ラスト近くからは不覚にも涙をながしてしまう。

無器用な生き方しかできなかった男の、体を張った精いっぱいの愛情と矜持(きょうじ)を表現したケビン・クラインの演技は見事。

死期が迫ってから、不義理をしていた息子や元妻と向き合おうとしても遅いのかもしれないが、この「海辺の家」は「勇気を奮い起こし行動することに遅すぎるなんてことは少しもないんだよ」とやさしく語りかけてくれる。

息子サム役のヘイデン・クリステンセンは、公開中の「スターウォーズ・エピソードU・クローンの攻撃」ではアナキン・スカイウォーカーを演じる注目の新鋭。対照的な両作品での彼にアーウィン・ウィンクラージョージ・ルーカス両監督は進むベクトルは違っているが、偶然にも“父(的存在)に対する反発”という共通のテーマを課しているというのが面白い。

2002年7月19日 (敬称略)